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#23: 謝罪、そして、つぐない(第3回)

2/8/2018

 
【事実を認める】
このような、おぞましい人権侵害を受けた女性たちと向き合い、日韓両政府はどうすればよかったのでしょう。どうすれば、被害者にとって癒しのある、心に寄り添った、解決ができるのでしょう。それは、事実を認めて、謝罪して、そして、つぐなうことではないでしょうか。それが、人間のモラルに照らして、とるべき道だからです。
 
1992年に日本政府が慰安婦問題を認めるまでは、敗戦に際して自らが証拠隠滅をしてしまったにもかかわらず「証拠がない」として、事実を認めるどころか、調査すらしませんでした。戦争に行ったことのある元軍人であれば、ほぼ誰もが慰安婦の存在を知っていたにもかかわらず、否定し続けてしまったのです。しかし、最近の森友・加計問題にもあるように、調査をする必要さえないと拒んでいたのが、いざ調査せざるを得なくなると、政府にとって不都合な資料がたくさん出てきました。
 
事実が明るみに出ると、流れは大きく変わります。1992年、当時の加藤紘一官房長官が日本軍の関与を初めて認め、謝罪しました。同年、当時の宮沢喜一首相も続きます。1993年には、本文でも既に述べた一年ほどの政府による資料調査や、元慰安婦の女性たちへの聞き取り調査を経て、当時の河野洋平官房長官が、それら調査から事実を認め、深い謝罪をしました。

​さらに、この「河野談話」と呼ばれる発表において「歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さない」と、固い決意を表明しました。また1994年には、当時の村山富市首相も事実を認め、謝罪しました。
 
事実を認めて、おぞましい人権侵害を謝罪する。その道は、ようやく開けたかに思われました。しかし、残念なことに、依然として事実の全てまたは一部を否定して、この人権侵害問題を軽んじる発言が、少なからぬ国会議員など政治家から出続けました。
 
そして2007年には、とうとう安倍晋三首相が、「いわゆる従軍慰安婦というもの、この強制という側面がなければ(教科書に)特記する必要はないわけでありますが、この強制性については、全くそれを検証する文書が出てきていない」と発言し、一転、事実を否定したのです。また「私は慰安婦だったと言って・・・明らかに嘘をついている人たちが、かなり多くいるわけです。そうすると、ああ、これはちょっとおかしいな、と我々も思わざるを得ないんです」とも、同年に発言しています。一方で、「私の政権は、河野談話を守り続けると一貫して申し上げております。私たちは、当時の状況下で慰安婦としての苦難と苦しみを味わうように、これらの女性の方たちを強制したことに責任を感じています」と、これまた同年に発言しています。
 
これらのような、明らかに矛盾した考えを、同じ年に二転三転する発言。「強制」を検証する文書が出てきていないと言って、数多くのおぞましい行為やその証拠・証言を都合よく無視し、未来に伝え継がれる教育を回避しようとする姿勢。また、一部の証言に疑義を抱くからと言って、数多くのおぞましい行為やその証拠・証言を都合よく無視し、5万人から20万人もの女性たちの信用を疑問視するような主張。日本政府や日本軍によって性奴隷にされた、この女性たちの人間としての尊厳を、一体いつまで踏みにじり続けるのでしょう。


いかなる理由があろうとも、いかなる方法で連れてこられたのであっても、ひどい親に売り飛ばされたり虐待された少女たちを含む、弱い立場の女性たちを、日本政府と軍が組織的に劣悪な環境におき、性の道具にしたことは、まったく誇らしいことではありません。これは明確な人権侵害であり、「性奴隷」と国際的に呼ばれる行為であり、二度と繰り返されないよう教科書に特記して、未来に伝え継ぐ必要のあることです。

また、本文でも既に述べたように、戦時中の空襲により多くの資料は失われ、日本政府により証拠隠滅のため多くの公文書は破棄・焼却され、現存する戦争資料も、その多くが日本政府により未だに非公開とされています。そのような状況のなか「文書を見せろ、証拠を見せろ、見せられないのなら強制はなかった、そのような事実はなかった」というのは、あまりにも身勝手ではないでしょうか。

そして、おぞましい人権侵害を真摯に認めて深く謝罪するという観点からは、これではあまりにも不誠実ではないでしょうか。今回の慰安婦問題の合意は、その安倍首相の下で交わされたものとして、日本政府の誠実さに疑問符が付いてしまっているのも、悲しいことに否定できません。
 
以上のように、事実を認めて、謝罪すること。これは、1990年代に大きく前進したかに思われましたが、残念なことに2007年以降、はっきりとしない状況に後退してしまっています。
 
「一体いつまで、どれだけ謝罪すれば、被害者は気が済むんだ」と言いたくなる人もいるでしょう。謝罪とは、辛く苦しいことです。ましてや、自分自身が犯した罪ではなく、過去の人たちが犯した罪についての謝罪。それには、見たくなかったものを見ざるを得ないことも、聞きたくなかったことを聞かざるを得ないこともあるから、辛く苦しいのでしょう。
 
しかし、日本政府や日本軍が組織的に、このおぞましい人権侵害をしてしまってから50年間、その事実を日本政府は否定し続けてしまいました。そして、そこから12年間、謝罪したので「もうそれで充分だ」と、私たちが言っても良いのでしょうか。誰もが見たくなかった、聞きたくなかった、その聞くに堪えない性奴隷としての絶望を、現実として耐えしのぐしかなかった被害者の女性たち。その彼女たち以外の人間が「もうそれで充分だ」と言っても良いことなのでしょうか。
 
また、1992年から一年間で、政府調査を打ち切ってしまったことや、今もって多くの政府資料を非公開にし続けていることも、この状況を生んでいる原因ではないでしょうか。
 
そして、この残念な現状を招いている最大の原因は、何よりも、未来に伝え継がれる教育を放棄し続けていることではないでしょうか。


続きを読む:謝罪、そして、つぐない(4)【被害も加害も】
前回を読む:謝罪、そして、つぐない(2)【心の傷】

全シリーズ:謝罪、そして、つぐない(1)~(6)
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