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#35: 相続をしない理由(第6回)

10/8/2018

 
【私たちにできること】
恵まれない境遇で育った子たちには、期待できる親の財産などありません。それどころか、借金を残されるおそれすらあります。
 
直接的に親の借金を肩代わりさせられることもあれば、法的義務はないまでも、親の借金は返済しなければならないとする道義的心理が、子に重くのしかかることもあります。また、間接的に借金を残されることもあります。例えば、アメリカで大きな社会問題になりつつあるのが、教育を受けるための借金、いわゆる学生ローンです。
 
2018年6月時点の米国において、学生ローンの総残高は1.5兆ドル(約168兆円)にも上り、ここ十年間で倍増しています。現在4,400万人がこの借金を抱えており、一人当たり約380万円にもなります。また、このうち10%以上は返済ができない状態になっている。
 
これは、多くの親が子の大学費用を支払えないため、学生自身が借金をして教育を受けるケースが急増していること。しかし、就学中のバイトや卒業後に就職して受け取る給料では、その借金の返済が苦しくなってきていることを意味しています。
 
恵まれた境遇で育った子たちであれば、生ずることのない借金。それどころか、生まれながらにして多くの機会を与えられ、すべての費用を支払ってもらったうえに、財産をも相続する。一方で、恵まれない境遇で育った子たちは、生まれながらにして機会を与えられず、たとえ大学に進学できたとしても、卒業時には多額の借金を抱え、相続もない。
 
世界において豊かとされる国々でもそうですから、教育はおろか衣食住までもが不足している国々からしてみると、「格差社会」は生死を賭けた戦争やテロにまで発展する程です。
 
生まれた時から、きれいな飲み水もなければ、衛生的なトイレもない。泥とフンを固めて建てた薄暗い小屋で、家族と家畜がところ狭しと生活をする。家で日々使う水を汲みに、その小さな両手に大きなポリタンクを抱えながら、片道数時間かかる道のりを、1日2往復することが日課になっている6歳児。それが理由で、小学校へ通うこともできない。
 
そのような小さな子どもたちが、私たちの生きるこの同じ世界で、現実として共に生きています。
 
その子たちの瞳には、遠く離れたアメリカや日本の恵まれた境遇で育っている同世代の子たちに、追いつき追い越すことなど、気が遠くなるほど不可能に映るでしょう。貧困にあえぎ、教育も受けられず、毎日水汲みに明け暮れ、一体どうやって追いつくことができるのでしょう。あなたがその子だったのなら、どうでしょうか。
 
そのような恵まれない境遇にある人たちの多くは、年を重ねるごとに「絶望」に陥ってしまう傾向があります。それは、いくら努力しても固定化された貧困の連鎖を、抜け出す道が見い出せない絶望。教育を受けたり、良い仕事に就く術がない絶望。多くの若者たちは、そのような絶望のぬかるみに飲み込まれ、タリバン・アイシス(ISIS)・ボコハラムなど、テロリスト集団に参加してしまう。「絶望」から「不安定な社会」は醸成されているのです。
 
恵まれた境遇にある私たちは、この現実を対岸の火事のごとく、見て見ぬふりをしてはならない。世界はひとつ、みんな繋がっています。個々がどれ程ささやかであっても、私たちの相続の積み重ねが、この世界における「絶望」を、世代をまたいで持続する、とても大きな要因になっているのです。
 
そしてテロは、ニューヨークやパリなど、豊かとされる国々の大都市にも迫っています。それを戦争で解決しようとすることは、人殺しを人殺しにより解決しようとする、とても浅はかな考えではないでしょうか。人殺しによって、根本的な解決はできません。それは、さらなる憎しみを生み続け、煮えたぎる憎悪を世代をまたいで受け継ぐことになるだけでしょう。
 
むしろ、「絶望」の根底に存在する、生まれながらにして乗り越え難いほどの「機会の格差」を是正することこそが、今の現実を変えるために、私たちにできることではないでしょうか。
 
はっきりと目をそらさずに、意識してもらいたい。相続という「自己中心的な愛情」は、遠く離れた人たちの命や幸せをこれからも奪い続けることであり、愛する身近な人たちの命や幸せすら危うくしているということを。

続きを読む:相続をしない理由(7)【可愛いからこそ】
前回を読む:相続をしない理由(5)【不安定な世界】

全シリーズ:相続をしない理由(1)~(7)
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    JOE KIM
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    34歳でビジネスから引退。現在は、インクルーシブな支援活動家。
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